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2.
僕が最寄りの駅から会社に向かう途中、携帯に電話が入った。
「え、嘘だろ?」
その電話は僕を奈落の底に突き落とした。
電話の内容は警察から交通事故によるかみさんと娘の被害状況であった。
そして僕はかみさんと娘が運ばれた病院に直行した。
「救急で運ばれた…」
『あ、こちらです!』
僕の深刻な表情を察した病院受付の女性は婦長を呼び、かみさんと娘がいる病室に案内してくれた。
かみさんは意識不明の重症であり集中治療室に入り酸素マスクをし心電図の波形が僅かに動いていた。
娘は別の個室に収容されていて、事故による手足の捻挫と切り傷のみの軽傷であり僕が駆け寄っても特に反応が無く漠然と宙を睨んでいた。
「ともちゃん、大丈夫!」
僕が娘に声を掛けたが娘はただ頷くだけだった。
事故は車で娘を保育園へ送る途中起きた出来事で、警察の話では車の往来の無い一般道を走っていたかみさんは前方から猛スピードで走る車に気づきその車を避けるためハンドルを左に切ったが避けきれず正面衝突したのだ。
猛スピードで走る車は高齢者による逆走であった。
かみさんは逆走車を避けようと左にハンドルを切ったが避け切ることが出来ず、全身を強打し内臓が破裂し、そして顔面及び全身に外傷を負った。
娘はかみさんが咄嗟にハンドルを左に切った事から奇跡的に軽傷で済んでいた。
そして、事故後1週間が過ぎかみさんは変わる事なく昏睡状態が続いていた。
軽傷であった娘は僕と暮らしていたがやはり事故のショクからか口数が少なく娘自身から話しかける事はなかった。
事故以来、好きだったサインペンでのお絵描きをしなくなっていた。
しかし、ある時から何かに取り憑かれた様に娘は絵を描き始めた…
その絵は今までに無く暗い風景と人物が描かれ色彩が無く黒だけであり悲壮感漂っていた。
娘が描く絵は色彩が無い黒だけをどうして描く様になったのか?
すると娘が…
『いいの、ともちゃんはこの色だけが有れば…』
智子は見たものをすべて黒であると認識し受け入れるようになっていた。
それはどうしてなのか?
僕は何故娘が黒しか使わなくなったのか?
理解する事ができなかった?
『ママ、どうなっちゃうの?
死んじゃうの?』
「大丈夫、絶対元気になる!
ともちゃんが元気で明るくしていれば!
絶対!」
『うん…
でも?』
娘はかみさんの状態を分かっているのか?
今までの様に元気になる事が無くサインペンの黒だけを使い絵を描き続けていた。
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