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娘がどうして色彩豊かな絵が描けなくなったのか? それも黒だけを使った絵を? そして色を拒むことを? そこで僕は娘を精神科の病院に連れて行き見てもらう事にした。 「ともちゃん、大変だったね? もう大丈夫だから、なんでも良いから先生に話してくれないかなぁ?」 医師は丁寧な口調で娘に問い掛けていたが娘は口を開くことはなかった。 そこで提案されたのは催眠療法でこの医師はその資格を得ていた。 催眠療法の一つとして心の病いを解消する事が目的で、例えば過去起きたトラウマを解消し前向きに生きる自信をつけ本来の自分を見出せる。 催眠療法はきちんと学べば確かな効果が望める心理療法と言えるものであると… 「それでは始めますよ…」 「先生宜しくお願いします…」 僕が先生にお願いすると。 「ともちゃん、気を楽にして、そしてゆっくり目を瞑って… 先生が3つ数えるとあの時の情景が現れるよ… はい… 1!2!3!」 「パッチン!」 医師が3つ数え、指パッチすると娘は目を閉じうなだれ全身の力が抜けたようだ? 『ウワッー!』 いきなり娘が大声をあげた! 「ともちゃん、大丈夫落ち着いて… 少し辛いけどその状況を先生に話して…」 『ママ、ママ! ともちゃん動けないどうしょう? え、ママの顔血だらけ! やだよ、やだよ! ともちゃん、どうすれば良いの動けないよ! ウワッー真っ赤な色! その色って血の色なの? こんな色、ともちゃんもう… どうしてなのママをこんな目に… いやだよー』 娘は大声で泣き出したのであった。 「パッチン!」 「ともちゃん、話してくれてありがとう。 もう、大丈夫だから…」 医師は娘の催眠を解いたのであった。 医師は娘が色彩を無くし黒を選ぶようになった要因は交通事故であると。 その交通事故の情景が脳裏に焼き付きその情景がトラウマとなった。 その事故で運転していた母親は娘を守るためハンドルを左に切り、尚且つ娘の身体を左手で強く押し突っぱね娘を救った。 しかし、母親が行ったその行為の代償は大きかった。 その行為から逆走して来た車の正面部に母親だけが当たり重症となった。 損傷部は頭部の亀裂による出血、そして胸を強打した事から内臓破裂により口からの吐血し母親は血まみれとなっていた。 その状況下でありながら幼い娘は母親に何も出来なかった。 救急車が到着し意識がある娘が目にした情景は外傷を負った母親の赤い血液の色、そして救急車の白色や群がる野次馬の服装などの色だったのだ。 娘は母親を救うことが出来なかった。 そんな嫌悪感からその情景の色彩を受け入れることが出来なくなった。 情景の色彩は母親の負傷以外は日常的な色であったが、娘は受け入れる事が出来なくなり、自らそれらの色を使って絵を描くことや着る洋服など日常における色彩は無く現実を避けるようになり、娘は全ての色を受け入れられなくなっていた。 その後、僕は娘を連れ催眠療法を継続して行っていたが娘は色彩を取り戻すこと無く、黒の世界を生きる様になっていた。
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