4.

1/1

16人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ

4.

事故から1か月が過ぎようとしていた。 かみさんは変わりなく昏睡状態が続き、娘は色彩を恐れ、家に閉じ籠り毎日黒一色の絵を描いていた。 「ともちゃん、病院に行くよ… あと、ママのお見舞いにも…」 『パパ、ともちゃん病院に行かなくて良いよ… 色が無くても大丈夫だよ…』 「ともちゃん、ママにともちゃんが描いた絵を見せたら喜ぶと思うけどなぁ? それには元気になって綺麗ないろいろな色を使って絵を見せてあげたらなぁ?」 僕はなんとかいつもの娘に戻ってくれるよう祈っていた。 『…』 『パパ、それが出来ないの? まだ、あの時の事が見えるの? ともちゃんも勇気を出してサインペンを握ったけど出来ないの…?』 『ウワ〜ン、ウワ〜ン』 娘は大声で泣き出した。 そうか娘も心の中で葛藤しているんだ。 「ともちゃん、分かったよ辛いんだよね? でもね、ゆっくりで良いから治そ! だから病院に行こう…」 『分かったよ、パパ… 頑張って見るよ。 あと、ママ治るよね?』 「大丈夫、絶対に治るよ!」 『うん! パパまだ色が無いけどママにともちゃんの絵見せたいなぁ?』 「そうだね、ママに見せようね!」 初めに娘を精神科医師に診てもらうことにした。 「ともちゃん、だいぶよくなってるよ…」 『そうかなぁ? ともちゃん、先生から言われた事少しづつだけどやってるからかなぁ?』 医師が娘に行っていた治療は催眠療法でのイメージトレーニングだった。 催眠療法のイメージトレーニングは事故の悲惨な情景を娘が理解しその情景を受け入れ克服する事であった。 医師曰く娘は悲惨な事故の情景を避けずに受け入れる段階まで進歩していた。 それは催眠療法によって娘の潜在意識に語りかけ精神状態が悲惨な情景を受け入れる前に戻し、そこから語りかけるようにゆっくり事故内容を理解させる事であった。 その催眠療法が功を奏し事故の情景を娘はモノクロ…黒の情景として克服出来るようになっていた。 「ともちゃん、もう少しだよ…」 『ありがとう、先生…』 「あ、ともちゃんパパと難しいお話しがあるから隣の部屋のお姉ちゃん(看護師)と遊んでいてくれるかなぁ?」 『良いよ!』 娘は看護師が居る隣の部屋に移動した。 「先生ありがとうございます… 娘をここまで回復させて頂き感謝いたします」 「良かったです… ところで奥さまの状態は?」 「それがまだ意識が戻りません… かみさんの主治医からこのままの状態が続くと脳死すると…」 「そうでしたか、それは厳しい状態なのですね?」 「でも私は諦めていません! 絶対奇跡は起きると信じています… それをいつも娘に言い聞かせていたので娘は色彩を取り戻すためこの様に先生の治療を頑張って受けています!」 「そうですよね… そこで娘さんの色彩を取り戻すには奥さまの意思表示が必要なんです… 奥さまの意思表示が届けば娘さんが味わった悲惨な情景を克服しモノクロの世界から色彩ある現実へと戻る事が出来るのですが… それはこの催眠療法で実証されています。 旦那さんのその意志が有ればきっと奇跡は起きます! 頑張って下さい!」 僕は医師の話を聞き大きく頷いた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加