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相談
「実は…」
私は話し出してしまった。
誰かに聞いてもらいたかった。
吐き出したかった。
家族のことは誰にも相談できず、
一人で溜め込むしかなかったから。
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私たちは近くの公園で缶ビールを開けながら話していた。
「それは大変だったね…。
んー、僕からすると、怒鳴るなんてことは普通の状態ではしない、というか…。
旦那さんには旦那さんの事情だったり、精神的な状態が悪かったり…あるとは思う。
でも、だからといってそんなに怒鳴って良い理由にはならないかな。
リサさん、無理しないで。
僕で良かったらいつでも相談にのるから。」
そんなふうに言ってくれて、
私は救われた気がしてしまった。
「ありがとうございます。
たくさん話聞いてくださって…。
あ!
木村さんも何かあったら、相談してくださいね!
私で良ければ聞きますから!
あ…、そういえばもうこんな時間…。
ご家族心配されますよね、こんな時間まで…。
私もそろそろ帰らなきゃ…。」
「いえ、僕は全然。
いつも好きな時間に好きなことをしてるので。
あ、そうだ…そしたら今度僕の相談のってくれる?」
「もちろんです!お店で…」
「いや、プライベートで。
お店は流石に…話しにくいし。」
私は少し考えたが、相談にのると言った手前断ることができず、
「分かりました…っ。」
と、変な緊張をしながら答えていた。
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今日は木村さんと約束していた相談にのる日。
木村さんが金曜日の夜が良いと言っていたので、
夫には職場の人と仕事終わりに飲みに行くと伝え、久しぶりに夫一人に子供を任せてみた。
職場の人と行くと言ったのは、夫にあらぬ心配をかけさせたくなかったからだ。
それにお互い、異性と飲むことに関しては別に良いというスタンスだった。
禁止してしまうと、束縛してるみたいで嫌だったし、私は夫が学生の時の異性の友だちが多いことを知っていたので、飲み会くらい自由にして欲しいと思っていた。
(今日は帰ってから怒ってませんように…。)
そんなことを祈りながら、
私は待ち合わせ場所で木村さんを待っていた。
ちなみにバイト先や家に近いと、見られたときの説明が面倒でしょ、ということで普段使わない路線の駅での待ち合わせをしていた。
「お待たせしました!」
急いできてくれた様子の木村さん。
「全然、待ってないですよ。
どこかお店に入りましょうか?」
夫以外の人と久しぶりに飲みに行くのに、少し緊張している私。
「僕の行きつけで、個室でゆっくり話せるお店があって、そこでも良い?」
「はい、大丈夫です。」
「じゃあ、行きましょうかっ。」
お店の常連さんと、こんなふうにご飯を食べる時が来るとは思ってもみなかった。
(でも、久しぶりのデートみたいで楽しい。)
お店に着き、個室に案内され注文して
お互い無難な会話を楽しみながらお酒がすすむ。
「すみません、こんなに話してしまって。
木村さん、本当にお話上手ですね。
ところで、相談っていうのはどんなことなんですか?」
私はそろそろ本題に入っても良いかと思い、切り出してみた。すると、
「実は、相談にのってほしいっていうのは嘘。
リサさんの話聞いてて、息抜きしてほしいなって思ったのと…あと、もっと話たいなっていう下心からでした。
すみません。」
木村さんが頭を下げて言う。
「え!いやいやいや!それって…完全に私のためじゃないですか!!
むしろ、息抜きとか考えてくださってありがとうございます!………?ん?下心…?」
「あはは。そこ気付いた?
でも、本当。じゃなかったら誘いません。」
「いやでも、私既婚者で子供もいますし…めちゃくちゃ平凡ですし…木村さんなら引く手数多でしょうし!」
「そんなことないない。それにリサさんが平凡だったらこんなに惹かれてませんっ!」
「またまたぁ、お酒で酔い過ぎちゃったんじゃないですか?お水もらいましょうか。」
と、注文ボタンに手を伸ばしたところを、
木村さんに手を掴まれた。
「酔ってない。」
急に真剣に見つめてくる。
そしていつの間にか隣の席に座られていて…
「嫌なら言って?」
そう言って嫌と言う暇も与えずにキスをしてきた。
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