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もうしない
「今日はありがとう。またカフェで会おうね。
プライベートでも、いつでも声かけてよ。」
「はい。今日はありがとうございました。
ご飯も美味しかったです。お会計も、すみません払わなくて、ごちそうさまでした。」
木村さんがいつの間にか先に払っておいてくれたみたいだった。
こういう扱いを受けたのは生まれて初めてで、正直嬉しかった。
「いいのいいの。気にしないで。
僕はこの後、会社に戻って少しだけまだやることあるから、ここで。またね。」
そう言って木村さんは行ってしまった。
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帰りの電車で余韻に浸る私。
再び女として扱ってもらえたことの喜び。
優しい言葉をたくさんかけてもらえて、すごく嬉しかった。
(すごく、色んな意味で良い日だった。
心が軽くなった気がする。
でも、こういうことは、もうしない…。
今日のことは墓場まで持っていこう…。)
やはり私は不倫なんてリスクの高いことはしたくなかったし、続けたくなかった。
ましてやバイト先の常連さんと…、というのも店長の手前気まずくなりそうだとも思った。
だって店長が狙ってた人だったから…。
(それに、木村さんに対して恋愛感情があるかと言われると…ないんだよね。)
不思議と恋愛している時のような「好き!」とか「いっぱい会いたい!」とか「付き合いたい!」という気持ちが涌かなかった。
(私ももう32歳の子持ちだもんなぁ…。学生の時みたいなトキメキなんてものは失われたんだよね、きっと。)
だからもう、木村さんと体の関係を持つことはないと思えた。
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「ただいまー。」
小声で帰宅すると、家はもう真っ暗。
夫も子供も寝たようだった。
(この時間に帰ってくれば、さすがに怒鳴り声は聞こえないんだなー。なんて、、こんな時間に私が帰ってくることなんて、滅多にないんだけどね。)
そう思いながらシャワーを浴び、
寝る準備を整え、
そして疲れたからか、すぐに眠りについた。
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