ラベリング

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 物資不足が深刻になった現代、ありとあらゆる物には所有者をラベリングすることが義務付けらている。それは、所有する責任、手放す時の義務。それを果たさせるためで、購入時に基本的に購入者名がラベリングされる。消費の抑制や違法投棄の防止。それだけでなく、犯罪の証拠という副産物まで生み出した制度。それが裏目に出た。 「誰かに盗まれってことも」  桐矢の言うことも、可能性はゼロじゃない。しかし、 「だったら、希一班長が言うでしょ」  希一は弁明を一切しなかった。 「でも、知らない間に盗まれていたということだって」  確かに、自らの持ち物であってもすべてを常に把握している人間などまずいないのではないか。なのに、希一は即答していた。 「もし、関与、していたら」 「明日花」  なんてことを言い出すのだ。班長に限ってそんなこと、あるはずがない。 「班長がそんなことする人じゃないって、明日花だってわかってるよね」  非難するような桐矢の言葉が突き刺さる。  そうだ、自分がわからなくてどうする。  明日花はぼんやりと自らの手を見ながら自問する。
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