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「私があの日学校から突然いなくなった時、そう、怜くんの前から消えた時のこと覚えてる?」 「覚えてるよ。覚えてるよ、そりゃ。」 「中学三年生の冬だったっけ。寒かったな、あの日は。」  中学三年の冬に楓は消えた。同じ学校、同じ教室。隣に座っているはずの楓は三学期初めの日には現れなかった。その日からずっと。 「転校したって聞いた。お父さんの転勤が理由だったんでしょ。」 「そう。私って昔から転校ばっかしてたな。」  楓は中学二年の夏の初めにうちの中学校へ来た。新しい環境だっていうのに慣れた顔つきでクラスメイトに挨拶をする彼女は、俺にとってはたくましく見えた。 「どうして、転校すること話してくれなかったの。」 「どうしてって?」 「いや、分かってたならいなくなることくらい伝えてくれ……」 「そんな関係だったっけ。」 「えっ。」 「私たちってそんな関係だったっけ。そんなに仲良かったのかな。まぁ確かに、初めて私があの中学校に行った日も怜くんの隣に座ったっけ。不思議そうに私のこと見てたよね。」  俺たちの関係はどうだったのだろうか。  あの日君を初めて見た日、君を特別に想った。理由なんてない。ただ君のことを目で追う自分がいた。これが言葉に表せない感情ってやつなんだろう。 「ごめんね、酷いこと言っちゃって。」 「いや、そんなことは。」 「私ね、本当は確かめたんだ。」 「確かめる?」 「ううん、なんでもない。」  言いたいことは分かった気がする。というか、あの頃も何となく察していただろう。  たまに帰り道に一緒に帰るだけの関係。深い話なんてしたこともなかったし、どこか遠くへ出かけることもなかった。でも、だからこそ居心地が良かったのだろう。二人だけの世界にいるようで。  楓の連絡先すら知らなかった俺は、彼女が消えたその日に何もすることができなかった。君が何も告げずに消えた理由をそれとなく分かっていたというのに。 「私、転校した後にそっちの方の高校も行ってさ。念願のJKライフってやつ。でも、思ってたのとは全然違かった……」  言葉を詰まらせる彼女を初めて見る。 「いじめられてたんだ、私。」  たくましく分厚く見えていた彼女は、実際には繊細で脆いものだった。 「それからね……」  彼女は高校に入学してからしばらく経った頃、いじめの標的となった。ありきたりな理由から始まったその時間は、彼女にとっては恐ろしく長い、地獄のようなものだったのだろう。  そんな時にある男と出会ったという。  同じ境遇にいる者。    そんな二人は一つの約束をした。 「十月二十一日、二人でこの世界から旅立とう。」    高校二年のその日、躊躇った彼女を置き去りにその男は旅立ち、白河楓は一人になった。 続
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