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どんな場所にもお化けはいる。生きているひとと変わらないようなひともいるし、ぐちゃっとした感じのひともいる。ときどき、真っ黒い何かに進化しちゃったひともいる。そういう時は、できるだけ近づかないようにした方がいい。近くに行くと身体がすごく痛くなるし、真っ黒い何かに触ると自分の身体も黒ずんでしまうから。
「わたしが怖くないのかい?」
「怖くありません」
「お化けと話しているのに?」
「だって、たいていのお化けは僕に何かをしてくるわけじゃないですから」
お化けが気にならない理由はこれだけ。偶然かもしれないけれど、人間と変わらないひとも、ぐちゃっとしているひとも、僕への害はない。見た目のインパクトは強いけれど、それだけ。痛い思いをしないなら、別にどうでもいいかなと思ってしまう。
「家には帰らないの?」
「早く家に帰っても、仕方がないですし」
「でもそろそろ夕方だよ」
「大丈夫です。ここは、夜も電灯がついていて明るいですし、犬の散歩をしているひとも多いですから。変質者が出たという話も聞いたことありません」
「本当に?」
「むしろ、今日変質者情報で先生に注意されていたのは、全身黒ずくめの誰かさんですよ。真夏なのにそんな変な恰好しているから」
「これは、変な格好ではなく正式な服装なんだよ」
学校の制服みたいなものかな? 僕も、あんまり半ズボンは好きじゃないけれど、制服だから仕方ないんだよね。このお兄さんもそういう感じなのかな。
そんな僕の横で、お兄さんが胸元から懐中時計を出して時間を確認していた。すごいなあ。不思議の国のアリスのうさぎみたい。
「ちょっと時間が迫ってきたな。体調はもう大丈夫そうかな?」
「お仕事中にご迷惑をおかけしました。ありがとうございます」
「やれやれ。大人みたいだな」
「変ですか?」
「いいや。ただ、無理はしないように」
やっぱりこのお兄さんはいいひとだな。せっかく助けてもらったのだし、お兄さんの迷惑にならないように気を付けて遊ばないとね。僕は飲み物の残りを飲むと、頭を下げた。
「ありがとうございました。さようなら!」
「それじゃあ、また」
僕が手を振れば、お兄さんはにこりと笑って見えなくなる。どうしてだかわからないけれど、綺麗な紫の蝶に似ていると思った。
うっかり熱中症になりかけたけれど、ちょうどいい時間だ。僕はうきうきとした気分で、公園の奥を目指して進みはじめた。
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