黒い煙

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 私は小説を書くのが好きだ。  紛れもなく、生きがいだと思っている。  小学五年生の頃からだ。その頃から書いて、休み休みとはいえ、今の今までずっと続いている。  そして、好きなのだ。楽しいのだ。  だから。  だから、才能だと思っている。  やめる気はない。  諦める気も、さらさらない。  小説を書くという、ただ好きなことだけをして生きる将来が、私の夢だ。  叶わなくても、大変でも。しんどくても、諦める気はない。  それ以外、追う夢がないから。  その夢を追う以外に、楽しいことなんてないから。  夢を追わない自分の人生を、想像することができないのだ。  そんな私も、もうすぐ二十六。  なんだかんだ、四捨五入したら三十。  周りは関係ないだとか、自分は自分だとか、そう言い聞かせて生きているけれど、正直、焦ってないなんて言えば嘘になる。  というか、焦っているんだろうなって、本当は気付いている。  何か変わらないかな。明日、朝起きたら、空気が変わってるとかさ。  私のことすごい好きって言ってくれる、ファン第一号みたいな人が急に現れるとか。  私の言葉に全世界の人が反応して、スマホの通知が画面に並んでるとか。  ないかなあ……。  ないよな。  あるかもしれない、なんて期待して、あったときなんてないのだから。  呑気にそんな、馬鹿なことを考えているときだった。  家のインターホンが鳴った。それからすぐに、ドアがドンドンと叩かれる。   「え、何……こっわ」  思わず声を出して、しばらく静止。とてもじゃないが、玄関に近づこうという気は起きない。  ドン。ドンドンドン。コンコン。  ピンポーン。ドンっ。  激しい音に身がすくんだ。本当にまじで、不審者なのだろうか。  玄関から目を離さず、スマホに手を伸ばす。ぐっと力を入れて掴んだとき、今度はスマホがブーッと震えた。 「うわっ」  手が震えている。震えるスマホを落としそうになったとき、やっと気がついた。  とりあえず、スマホから確認しようーーそう思って、光る画面を確認して、私は眉を顰めた。 『開けてよ~。いるんでしょ?』  そのメッセージの上には、「Yuka」と、久しぶりに見る名前が表示されていた。  続いて、「スタンプを送信しました」という通知が三つ並ぶ。  呆れて言葉も出ない。 「あっ、やっと開けてくれた!」  ニコニコ笑顔で、悪気なさそうに扉の前に立っていたのは、幼馴染のユカリだ。  「わーい」とか嬉しそうにはしゃいでいる彼女に、私は重いため息を吐いた。 「普通に来てくれよ、頼むから」 「えっ、どこが普通じゃなかった?」 「……お前に普通って言葉は通用しないこと、忘れてたよ」
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