虹の根元で導いて

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 アイちゃん――改め、和泉藍さんとエントランスの休憩スペースに移動した。向かい合って座るやいなや、それまで我慢していたかのように和泉さんが口を開く。 「久しぶりじゃん! あれ、八年ぶりくらい?」 「和泉さんが引っ越してからだから、それくらいだと思う」 「えー、懐かし! 昔みたいにアイでいいって!」  和泉さんの言葉に僕は苦笑を浮かべて返事にする。小学三年生の時に引っ越していった同級生を下の名前で呼ぶのはちょっと気恥ずかしかった。 「え、てか、ハカセ。なんで昨日のタイムカプセル掘りいなかったの? 私、ハカセと会うのも楽しみにしてたのに!」 「えっと、昨日はどうしても外せない用事があって……」  嘘です。昨日も図書館で本を読んでました。みんなと会うのが気まずくてとは言いにくかった。幸い、和泉さんが深堀してくることはなくて、ほっと胸をなでおろす。 「和泉さんはタイムカプセルのためにこっちに?」 「うん。せっかくだし一週間くらいおばあちゃん家に泊ってく予定」  確か親の仕事の都合で引っ越して、気軽には来れないような場所だったと思う。同じ町に住んでても参加しなかった僕とは気合の入り方が全然違う。でも、そっか、しばらくこっちにいるんだ。和泉さんのことだから、きっと色々予定は詰まってるんだろうけど。 「でも、なんで図書館に?」  幼い頃の記憶でしかないけど、和泉さんがそんなに本が好きだった記憶はない。わざわざ昔住んでいた町に遊びに来て、図書館にくるだろうか。   「ふふん、自由研究の題材を探しにね」  自由研究って、高校にもなってそんな課題出るんだろうか。まあ、高校によるのだろうし、それに近しい課題を自由研究と呼んでいるのかもしれない。 「お題は決めたの?」 「うん。決めたよ」  和泉さんが得意げに胸を張る。思わずそちらに視線が吸い込まれそうになって、慌てて図書館の外に反らした。さっきより少し暗くなるのと同時に雲がかかってきた気がする。明日は雨が降るんだっけ。  和泉さんが鞄から一冊の本を取り出す。その表紙には「貴方も出会える都市伝説!」と書かれていた。 「虹の根元を掘って宝物を見つける!」 「……え?」
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