虹の根元で導いて

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 本から顔をあげるといつの間にか日が傾いて空が赤みを帯びていた。高校が夏休みに入り、帰宅部で特にやることもないからって気が付けば一日中没頭して本を読んでいた。  軽く肩を回しながらスマホを開くと、SNSのメッセージがたまっていた。昨日、小学一年生の時に埋めたタイムカプセルの掘り出しが行われた時の写真が今もポツポツとアップされている。  小学生の時は人よりも本の方が好きだったから――今もだけど――あまり友達もいなくて、中学は学区内の中学じゃなくて受験して私立の学校に通ったから、卒業してからはほとんど付き合いもなかった。一応SNSのグループには入っているけど、今さらあっても気まずい気がしてタイムカプセルの掘り出しには参加しなかった。  僕の分は適当に処分してほしいと伝えていたけど、十年前の僕は何を埋めたのだろう。その頃から図書室に通い詰めていた記憶があるし、今さら見ても当時のことを思い出して虚しくなるだけかもしれない。  キラキラとしたかつての同級生たちの投稿をずっと見てると軽く自己嫌悪になりそうだったのでスマホを閉じる。微かなでおぼろげな記憶。いつからだろう、半身を失ったような喪失感ばかりが残っていた。  この状態からもう一度集中して本を読めそうにはないし、読みかけのものは借りて帰ろう。膝の裏で椅子を押して立ち上がると、ガッと椅子に何かがぶつかる感じがした。振り返ると、僕と同じくらいの歳の女の子が痛そうに膝を押さえている。 「だ、大丈夫ですか? すみません、ちゃんと見てなくて……」 「いえ、私こそ注意不足で……あれ?」  すこし明るい髪の隙間から覗いた瞳が僕を見て、不思議そうに見開かれる。そのまま体を起こした女の子はグイっと僕に顔を寄せる。吸い込まれそうな瞳が目の前にあって、なんだかふわりと甘い香りまで漂ってきてドギマギとする。だけど、どこか懐かしいような。 「もしかして、ハカセ?」 「……アイちゃん?」
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