瞳泥棒

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 まんまるい、くるみボタンのような目が、二つ。  真っ黒なプラスチックだ。  なんの光も通しそうにない。  だけどよく見ると、黒い瞳の奥に、私の顔がさかさまに映っていた。  美術の授業は、めずらしく写生だった。一人ひとり画板をぶら下げ、校内に散らばる。  ルールはただ一つ。見たことのないものを描くこと。 「小熊くん」  声をかけてみた。  小熊くんは私と分かると、あからさまに不機嫌そうな顔をした。 「ここ、いい?」  返事は、ない。  小熊くんの画板をのぞきこむと、小熊くんは外の景色を描いているみたいだった。  空かぁ。  いいね。  空は、どれも違う景色だから。  ね。  ちょこん、という擬音語を意識して、私は小熊くんの左隣に座った。あくまでも「ちょこん」である。大事なのでもう一度言います、「ちょこん」です。決してお邪魔はいたしません、という意味です。かわいらしさも少し演出してみました。小熊くんに伝わってるかどうか、分からないけど。 「……何ですか」  と、敬語が飛んできた。冷感ボイス。ほら、やっぱり伝わってない。 「ここで描きたいと、思いまして」  と、敬語で返してみた。
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