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でもそう気づいたのは、私だけだった。その時教室七つ分の長い廊下には、小熊くんと私しかいなかったから。
そして小熊くんも、気づいていない。笑顔を浮かべたまま去っていった。
そして、私の足元に残されたのは、光るもの。
黒い、ビー玉のようなものが、落ちていた。
これって、目だよね。
それをつまんで、夜空の月とくらべてみる。
ビー玉のような、何か。
人間の目のような。
眼球にあたる部分は濃くて深い色味で、月明かりに照らされて、鈍く光っているのだった。
小熊くんが去ったあと、床に落ちたそれを拾おうとした時、それは少しだけ湿り気を帯びていた。涙腺の水分なのかもしれなかった。そしてよくよく見るとそれはビー玉のような球形ではなく、フタのようなかたちをしていた。私は、きれいなハンカチの中にそれを包んだ。
私は、これを盗んだのだろうか。もしかしたら、小熊タケルくんのものかもしれない、この何かを。
あの小熊タケルくんから。
盗みを働くのは罪だけど、何だか不思議。小熊タケルくんの瞳をいただくなんて、なんて甘くてすてきな罪を働いてしまったの、私。
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