瞳泥棒

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 開門したての高校は、おろしたての朝の空気を帯びて静かだった。運動部の人たちがパラパラとジャージ姿で過ぎ去っていく。私は係の時くらいしかこんなに早く学校に来たことがない。いつも朝礼に間に合うか合わないかの時間に滑り込むタイプだったので、自分が学校生活に前向きに取り組む模範的な生徒になれた気がして、何だか背すじがピンとなった。こんな気持ちにさせてくれるなんて、ありがとう小熊タケルくん。  重たい教室のドアをガラッと開ける。  そのとたん、ガタンっ、と大きな物音がしたので 「うわっ」  と思わず叫んでしまった。 「……いてー」  と、言いながら、机と机の間から立ち上がったのは誰あろう。  小熊タケルくんだった。 「お……おは、おはよう」  緊張か、もしくは朝一番の発声だったためか、「おはよう」ですらうまく言えず、軽く落ち込む。 「おはよう」  そういう小熊くんも表情がなかった。  ていうか小熊くん、今朝は眼帯をしていた。  あっ、と思って、私はスクールバッグの持ち手をぎゅっと握った。中にはギンガムチェックの紙袋が入っている。 「……目、どうしたの」 「いや、ちょっと」
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