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小さな声が、次第に大きくなっていく。
「ああ、これ。これだ。よかった、あった」
これ、これ。と、何度も小熊くんはつぶやいていた。
うれしそう。私もうれしい。
「よ、よかった。小熊くんので」
「いつ見つけたの?」
「昨日。ぶつかっちゃった時、落ちてたの」
「そっか、あの時」
「……す、すてきな目ですね」
言えた。言えた、何とかリハーサル通りの言葉を発することができた。
あ、でも変かな。変かな。変かな。すてきな目ですね、なんて。
で、小熊くんは何て言ってくれたかというと。
なんも言ってくれなかった。
ただカァッと、顔を真っ赤にして、自分の席に戻ってしまった。
週明けには小熊くんの眼帯は外れていた。おかげでさらさらの髪とやわらかそうな耳たぶが、よく見えるようになった。
小熊くんのまつ毛の下にも、無事目がある。
よかった。
でも、その目は、あの日落とした目玉なのかな。一度私が盗んだ瞳。あの夜はその瞳と一緒に眠って、夢を見たんだった。小熊くんがクマのぬいぐるみになって、私の腕に抱かれる夢。
また、夢で会えないかな。ぬいぐるみでもなんでもいいから。
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