瞳泥棒

8/12

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 ホンモノの小熊くんには、やっぱり全然触れることさえできそうにないから。   「義眼っていうの」  ウォーターサーバーで水筒に水を入れていたら、突然小熊くんにそう言われた。 「ギガン」  と、私はどうにもならず、そう言い返した。  だって今私は水筒に水を入れていたし、となりにあの小熊くんがいて、まさかしゃべりかけられるとは思わなかったから。 「うん」  と、うなずく小熊くんも、水筒を持ってウォーターサーバー待ち。やばい待たせてる、急いでやらなきゃ、と思って気づいたら制服がびちょびちょになっていた。  でもそんなの関係ない。小熊くんがじっと見ている。  しかもどういうわけか、小熊くんは小熊くんで、顔を真っ赤にしている。私の制服がびちょびちょでも、それどころではないようだった。 「こっちの目、ケガして、だめになって。中学ん時」 「え」 「だから、こっちは人工の目なの」  人工の目、と聞いて、やっと「義眼」という漢字が頭に浮かんだ。「義眼」。義足、義手、と、同じようなこと。生まれつき備わった目では、ないということ。  中学?  中学の時って、つい最近じゃないか。 「……大変だったんだね」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加