「黒の羽根が舞い落ちる時」

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「おーい!」  道路のむこうがわの喫茶店。  待ち合わせてる友達たちが、オレを見つけて、手を振ってる。  寒いのに何で外のテーブルに居るんだよ。ちょっと笑ってしまう。外に座ってるのは、あいつらだけだ。  オレも手を振り返してから足早に横断歩道まで進む。赤信号。  皆が何となくこっちの方を見てる。  この懐中時計、見せよう。何て言われるかな。動かない時計買って、あほみたい、てツッコまれるかな。なんて思って、ふと苦笑が浮かんだ瞬間だった。  ギクリと、強張った。   向こうから猛スピードで走ってくる乗用車。  オレの方を見て笑ってる皆の後ろから、そのテーブルにツッコんでいきそうな様子が、スローモーションのように目に映る。 「――――え……」  嘘だろ? 止まるよな……? 思うけれど、もう、どんなに急ブレーキをかけても間に合わない位置まで、猛スピードで進んでいた。  そしてその勢いのまま、まっすぐに皆のテーブルに突っ込んで、店の壁にめり込んで止まった。 「――――……」  悲鳴に包まれた中、オレは道路を渡って、駆け寄る。  無事でいてくれ、そう思うけれど――――……ものすごい勢いで突っ込まれた皆は……血だらけで倒れていて、変な風に体のあちこちが曲がっていて。もはや、見るからに……。ぞわり、と体中の血が凍った気がした。 「救急車……!!」  誰かが叫んで、今呼んでる! と叫ぶ声もかえってくる。  救急車が来たって、これじゃ……。  日常が壊れた目の前の光景に、気付くと涙が溢れていた。皆の名前を呼ぶ。  その時。固く握っていた懐中時計が、震えた気がした。  感じた違和感はすさまじくて。咄嗟に懐中時計を見ると、カチカチとやけに大きな音を立てて、時計は動いていた。  けれど、それは、逆向きに進んでいる。しかも、ものすごく、速い。  何だこれ……。  今は、こんな壊れた時計に構っている時じゃない。なのに、目が離せない。    気づくと、時計の枠の一番上のところに、変なボタンがある。さっきは気づかった。ストップウォッチでもあるまいし、このボタンの用途は……。 「君、この子たちの友達か?」  名を呼んでたオレに、誰かが話しかけてきた。 「お家の方に連絡取れるかい?」 「――――……」 「辛いと思うけど、なんとか……」  皆の家の人……。  呆然としながら、頭を整理しようと努めた時。  目の前をひらりと、黒い羽が舞い降りてきた。  ひらりひらりと、優雅に落ちていく様を、ただ、見つめた後。  なぜかオレは、そのボタンを、強く押していた。    突然、オレの周りが……ちょうど、ビデオの逆再生をしているかのように、動き出した。すごい勢いで。  オレは、おかしくなったんだろうか。  呆然としたまま、それを見ていた。  気が遠くなった気がして、はっと気づいた時。  オレは、さっき歩いた道に、立ち尽くしていた。  ――――周りは穏やかな日常。懐中時計は止まっている。  オレの心臓だけが。  バクバクと、大きく動いたままだ。冷え切った血も、そのまま。冷たい手を、ぐっと握る。
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