辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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「はい、正確に言えば、権利書を所有する者は専売の定めの外にいるというような内容だったかと思います」 「つまり、その権利書を所有していれば、塩の売り上げを自分の懐に入れられるということだな」 「そうなります」 「この村の規模なら、専売を認めても売上高は知れているので、国庫に影響するような額にはならない。しかし、ハイラル領の規模になれば、話が違ってくる」 「確かに……」 「だがな、この地域で、それほど多くの岩塩が採れるのか?」 「――この夏に大雨が降ったのを覚えていらっしゃいますか?」 「ああ、近年まれに見る大雨だったな」 「あのとき、谷川の流れをせき止めるほどの山崩れがありましてね……」  谷間の斜面の一部が崩落し、川がせき止められて湖ができた。  同時に、その崩落で新たな岩塩の地層も現れたのだ。 「その埋蔵量が、かなりの量でして……」 「その話は王都に伝わっているのか?」 「ええ、お伝えしたと思ってましたが、剣士様のお顔を拝見すると、初耳のご様子で」 「――いかにも」  あの崩落の際には、街道筋も場所によっては湖に沈んだため、一年近くも道を迂回させる大規模な工事が行われた。 「ははぁ……、あの土砂崩れの復旧作業には、国から救援にきていただく前に、ハイラル領から多くの兵士さんに助けに来ていただきました。その際、岩塩の地層を最初に発見されたのも、ハイラルの兵士さんでしたね」  王都守護庁には国内の諸々の情報が自然と集まってくる。長官代理ともなれば、国家の機密情報にも触れることのできる役職になる。  そのイカルが知らないということは――、
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