辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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 羅秦国の建国当時、ハルス村の先祖たちは情報戦で重要な役割を担っていたようだ。その功績として、塩の権利書が与えられたのではないだろうか。 「それと、手紙はもう一通あって、これはわたしの剣術の師であるマガン大将軍に届けてほしい。マガン大将軍は御光流剣術のご宗家でもある。このことは、知っていたか?」 「ま、マガン様! ご宗家であることは存じておりますが、お手紙をお渡しするのは無理です。私のような者など、門前払いされるに決まってます!」  と、遣いの村人は叫んで両手を振った。    さて、マガンとイカルのふたり。家族や親族ではないが、人格を形成する上で密接な人間関係があった。  それが剣術の師弟関係である。  マガンは当年四二歳で、御光流剣術の宗家であった。  イカルは、マガンに天賦の才能を見出され、十五歳で御光流剣術に入門するとめきめきと上達し、二四歳になる現在、師範位に名を連ねていた。  羅秦国では建国当初から武術が盛んで、武術の修行者は生涯のうちに一度は『廻国修行』に赴く慣わしがあった。  国内を巡り、方々で他流の剣術家や異種の武術家と仕合を行うことで、己の技に更なる磨きを掛けるのだ。  イカルの場合は、職業上の身分を隠して一介の剣術家となり、年に一度は廻国修行と称して、生きた世相を観て廻っていた。   「だれも、本人に直接渡すように言っていないよ。幸いマガン大将軍は、この辺りの方面軍指令としてカフラの郊外に駐留されている。側近にトクトという者がいる。わたしのきょうだい弟子だ。彼なら『御光流の遣いの者』と言えば、すぐに面会が叶う」
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