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遣いの村人は、イカルの挙げた名と手順を必死に反芻する。
「少し急いだ方がよさそうだ。無茶な頼みで申し訳ないが、すぐに出立してほしい」
「承知しました」
手紙を懐に入れた村人は、水筒と最小限の荷物を持っただけで屋敷を飛び出て行ったが、すぐに、「た、た、助けてください! 兵士たちが大勢やってきます!」と叫びながら屋敷に駆け戻ってきた。
「なに! お前たちは、散れ! 捕まったら殺されるぞ!」
イカルの言葉に、村人たちは慌てて屋敷の裏口から谷間の隠れ家に散っていった。
一方で、手紙の遣いの者には、傍に控えているよう頼んだ。
イカルが表に出ると、大勢と言っても十人ほどの小隊だった。
恐らく、なかなか戻らない三人を捜しに来たのだろう。
「よいか、わたしがいまから奴等の隊列に穴を開けるから、そこを抜けてカフラまで行ってくれ。さいわい奴等は弓矢を持っていないから、通り抜ければ狙われることはない」
とイカルは遣いの者に言った。
遣いの者は、唇を震わせながらも頷き返した。
「うむ。お前の勇気、気に入った。振り返らずに、ただ駆け抜けろ」
そう言い聞かせると、イカルはハイラルの隊列に分け入った。
遣いの者の眼に、イカルの剣がキラリと光った。
イカルは先手を打った。
相手が剣を抜く間も与えず、隊列のなかに躍り込むと、手当たり次第に斬っていった。
相手は甲冑で身を固めているので、手首や首筋、内股など弱いところを集中して攻め、剣や槍を持った相手の指を切り落とした。
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