辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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 ハイラルの兵士たちの質が凡庸なのは、先ほどの三人と手合わせしたときに判っている。今回も似たような者だと踏んだのだが、実際にその通りだった。  イカルが突入して三つ数えるうちに、ハイラルの部隊は早くも半減していた。  遣いの者はイカルの剣術の凄さに背筋がぞくりとして、鳥肌が立った。 「おい、いまだ!」  イカルの声に、遣いの者の注意が戻った。  遣いの者が目の前を見ると、隊列の片方の端がきれいに空いていた。  慌てて駆け出して脇を通り抜けた。 「頼んだぞ! 途中で休憩をとることも忘れるなよ!」  と遣いの者に声を掛けながらも、イカルの剣はとまらない。  振り返るな、と言われたが、遣いの者がちらりと目を後ろにやったとき、イカルの投げた槍が、隊長と思われる兵士の背中を貫いたところだった。  恐ろしくなって、あとはただ、駆けに駆けた。  村の中を駆け抜けている者がもう一人いた。  まだ幼い面立ちを残している少年だった。  少年は避難している小屋に入ると、床に座って休んでいた母のもとに跪いた。 「母上、(いくさ)になりそうです」 「村長のご家族を連れ去ったあとに仕掛けてくるとは、なんと卑劣な連中であろう」 「お世話になっている、この村のご恩に報いるためにも、私も一緒に戦いたく思います」  少年の意気込みに母はひとつ頷いたものの、「我が一族に恥じぬ良い心がけです。しかし、村長もおらぬのに、たれが指揮を執るのでありましょう?」と当然の疑問を口にする。
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