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     堰止め湖と言われているが、川をせき止めている岩の高さは、イカルの背丈の倍ほどだった。同じような大きさの岩が二つ並んで、その隙間を土砂が埋めたような状態だ。 「端的に言えば、合図に合わせてこいつを割ってほしい。できるか?」  イカルに言われて、付いてきた村人たちはお互い顔を見合わせて、 「やれと言われれば、やるまでですが、全体を見てみなければわかりません」  と応えながらも、岩肌を撫でたり、岩の上に登ったりしている。  彼らの顔つきが仕事にとりかかる職人のように一変したのを見て、イカルは見学と決め込んだ。  村人たちは、ひとしきり岩や周辺の地形を見て回っていたかと思うと、顔を突き合わせて相談を始めた。  三人が大きく頷くと、ひとりがイカルの元に駆け寄ってきた。 「お待たせしました」 「いけそうか?」 「向かって右側の岩ですが、あらかじめ楔を何カ所か打ち込んでおけば、最後の一撃で粉々に砕けそうです」 「片方だけでも砕ければ、あとは水圧で決壊するな」 「間違いなく決壊します」 「よし、それで行こう!」 「承知しました!」  そのあと道具をとりに戻ったところ、村人が五十人ほど集まっていた。  一緒に戦う顔ぶれの中に、少年がひとりだけいた。  イカルは少年に近づくと、「勇ましいな。怖くないか?」と声を掛けた。 「ええ、大丈夫です」  と少年は気丈にも答えたが、緊張しているのだろう、唇を舌で何度も舐める仕草をした。  イカルは少年の肩に手を置くと、湖の見えるところまで連れて行った。 「わたしはイカルという。君の名を聞いてもいいかな?」 「私は、アトリです――」
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