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 イカルは頷くと、「それでは、アトリ君」と改めて呼びかけた。 「君に頼みがある。非常に重要な役割だ。君が上手くできるかできないかで、村人全員の運命が変わる。わかるね」  イカルの真剣な表情に、少年は唾を飲み込み、ようやく頷いた。  二人がゆるく大きな曲がり角に差し掛かったとき、 「この対岸に山小屋が見えるね。君にはあの山小屋のそばにいてほしい」  そう言うとイカルは懐から呼び子を取り出し、少年の目の前にかざした。 「いいかい。このあと――たぶん明日になると思うが、必ず戦闘が起こる。そのとき頃合いを見て、わたしが合図を出す。すると、まず村の方でこの呼び子が鳴る。その音がこの場所で聞こえたら、今度は君が湖の方に向かって、呼び子を思い切り吹いてほしい。君が笛の音を届けてくれたら、この闘いは必ず勝てる!」  とイカルは言って、両手を少年の肩にのせて、ぐっと力を込めた。  イカルから力をもらった少年は、もう震えてはいなかった。 「よい顔だ。絶対に勝つぞ!」  イカルの言葉に、少年はちから強く頷いた。  配置が一段落すると、イカルは街道筋にも新たに見張りを立たせた。 「ちょっと、出かけてくる。体力のある者が 交代で見張りに立ち、残りの者は今のうちに休んでくれ」 「どちらにお出かけで?」  村人たちは単純にイカルがいなくなることを不安に思っていた。 「ああ、そうだ。ひとつ仕事を忘れていた――」  と言って、イカルは村長の屋敷に入っていった。  イカルが再び屋敷から出てきたとき、封書を手にしていた。
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