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とりまとめ役の村人にその封書を渡すと、「わたしが出かけているうちに、ひょっとするとカフラの方面から治安部隊が来るかも知れない。来たら、これを渡してほしい」と言った。
「イカル様、治安部隊が来るかも知れませんが、ハイラルの兵隊たちも来るかも知れません。そのときは……」
「その心配はない。わたしがいまから行くのが、そのハイラル領だからな」
「ええっ!」
村人たちは一斉に驚愕した。
最初からイカルには驚かされてばかりだが、今回のは想像を超えていた。
「ふふふ、心配はいらぬ、といっても無理か……」
「笑ってる場合ではありません!」
村人は真剣な表情を崩さない。
「まぁ、作戦の一環だ。ただの思いつきではない。お前たちを見捨てるつもりなら、最初からここに来たりはしないよ」
信じてくれるか――、とイカルが言えば、村人としては頷くしかなかった。
「なるべく早く戻る」
と言い置くと、街道をハイラル方面に入っていった。
ぽとり……。
――。
天井から落ちた水滴が、石を敷き詰めた床に落ちた。
石畳の冷たい床に転がされていると、深く眠りにつくことはない。
いつも意識のどこかで目覚めていた。
いまも薄目を開け、石畳の目地を視線でなぞっていた。
遠くで扉が開き、通路を歩んでくる足音が聞こえた。
足音は近づいてきて、檻の前で止まった。
バンは、重い頭をもたげた。
檻の鍵が開けられる音がした。
「……動けるか? こっちに来い」
と声を掛けてきた兵士の言い様に、バンは違和感を持った。
違和感を持ったが、囚われの身である以上、こちらに来い、と言われれば従うしかない。
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