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 バンは床を這うようにして扉の方に進んだ。  近づくと、檻の扉が開けられた。  バンは鉄格子に手を掛けて、上体を起こし、ゆっくりと立ち上がった。  その間も、兵士はバンの緩慢な動作にいらだった様子もなく、バンのからだの具合を看ているようだった。  檻からそろりと出たバンに、兵士が腕を回してきた。  兵士の背丈は、バンよりも頭ひとつほど高かった。  鍛えられた筋肉がしっかりと支えてくれるので、何とか歩けた。 「……兵士さんは、……いったい、誰、なんです?」  どこへ行くのかと問うよりも先に、この兵士に興味を持った。  ここの兵士の格好をしているが、兵士の感じがしない。 「それよりも、この水を飲め。少しずつだぞ」  兵士から渡された水筒を口に含み、言われたとおり、少しずつ喉に流し込んだ。  通路の突き当たりの階段に着く頃には、ひとりで歩けるようになっていた。 「……もう、ひとりで歩けます。……ありがとうございます」  不思議なことに、これから行くところに不安はなかった。  それだけ安心させる雰囲気をこの兵士は出していた。  二人は、獄舎の外に出た。  外には夜の(とばり)が下りていた。  馬のいななきが聞こえた。  厩舎に向かっているらしい。  途中でほかの兵士に会うことはなかった。 「――あれぇ、そういえば、警備の者が見当たりやせんね?」 「ああ、誰もいなかったぞ」 「ふっ、ご冗談をいっちゃいけやせんぜ……」  バンは兵士のとぼけた言い方に思わず口元を緩めた。 「ふふふ、やっと笑えるようになったな。さぁ、帰ろうか」  二人の姿が暗闇に溶け込んで、消えた。
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