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 ただ、班長であるゲンブに向けて、やってほしいことが書いてあるだけだった。そこには、自分に向けられた信頼があった。  ――ならば、行かねばなるまい。  イカルのためなら命を懸けてもいい――、ゲンブはそう思った。    村人たちが対岸の田畑の方に移動したのをみて、治安部隊の隊員たちは手分けして、橋を落とし、獣よけの柵を川岸からの登り口に移設した。  ゲンブの率いる治安部隊は土木作業を得意としているので、作業がはやい。あっという間に、橋が撤去された。  全員の配置が終わった頃、ハイラル方面の街道の方から軍団が姿を現した。 「予想より早かったな。多少はできると褒めるべきか、な」 「まずは百人ほどの先鋒のようですね」  ゲンブの報告に頷くと、イカルの口元には不敵な笑みが浮かんだ。  しかし、戦が初めての村人たちはそうはいかない。  本物の軍勢を目の当たりにして、歯の根が合わずガチガチ鳴らしている者や手の震えの止まらぬ者が大半だ。  イカルは階段状にのぼりになっている田畑の中段あたりで、対岸から矢の届くぎりぎりの場所に仁王立ちになり、これ見よがしに身を晒した。  イカルの挑発にのって、ハイラルの兵から何本かの矢が飛んできた。  矢のほとんどは届かなかったが、(あた)りそうになった矢も、イカルは体を捌いて、すべて避けた。  その余裕を持った身のこなしに、村人も相手の弓矢の攻撃が思っていたほどではないと思え、落ち着きを見せた。  先鋒の小隊が浅瀬を探して、川を渡り始めた。  浅瀬とはいえ谷間の川なので、それなりの深さがあり、流れも速い。  イカルが弓に矢を(つが)えて、両腕を引き分けた。
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