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 川岸で戦っていたイカルが合図を送った。  呼び子が谷間にこだまする。  遠くのほうで別の呼び子が応えた――アトリ少年の呼び子だ。  イカルと治安部隊の隊員たちは、ハイラル軍の勢いをいなしつつ、さらに上段に登っていく。  突然、川上から轟音が響き、大地が揺れた。  巨岩を濁流に巻き込みながら下ってくる。  石工たちの手で、湖をつくっていた堰が決壊したのだ。  イカルたちは攻撃の手を止めて、急いで田畑を駆け上がった。  かなり上段まで駆け上がったが、それでも濁流からの飛沫がかかった。  ハイラル軍の兵士たちは、何事か判らず、その場で立ちすくんだ。  押し寄せる濁流を見たときが、兵士たちの最期だった。  濁流に巻き込まれなかった兵士は我先に河岸から逃れようとしたが、街道から土手を降りてくる兵士たちに押されて行き場を失い、結局は濁流に呑まれてしまった。  ハイラル軍は大混乱に陥った。  ごく僅かながら川を渡りきった兵士もいたが、ゲンブの率いる治安部隊がすべて倒した。  対岸では、ハイラル勢が街道に広く展開し、濁流が鎮まるのを待っている様子だった。  必然的に両者睨み合いの状況が続く。    つぎに様相が変化したのは、ハイラル軍の後方だった。  何かに押し出されたかのように、後方の軍が中軍にめり込んでいった。  相当な数の兵士が街道から土手の方へ転げ落ちていった。  それだけ後方からの圧力が強いことを示している。 「よし、来た!」  イカルが叫ぶ方向には、軍旗が見えた。  ゲンブが手をかざし、旗の紋様を確認した。 「あれは、マガン大将軍の旗ですね」
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