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「おいおい、そんなに畏まらずとも良いわ。後始末はこちらでする」  おい――、と言って、配下の兵に酒樽と食糧を運ばせた。 「それよりもな、連日の緊張でつかれているであろう。イカルも、治安部隊のお前たちも、村人とともに存分に休め」  マガンからの思いも寄らぬ心遣いに、さらに叩頭した。 「これは大変なお心遣い、何よりでございます。ところで、閣下、後の始末はどのようになさいますか? 必要であれば、わたしたちもお手伝いしたく存じます」  イカルが村人たちの意を汲んで、尋ねた。 「なぁに、いまからハイラル辺境伯のアホ(づら)を拝みに行くのよ。軍勢の運用はトロいが、逃げ足は速そうなのでな」  はっはっは――、と大笑すると、マガンは配下の騎馬軍団を従えて、ハイラル領に入っていった。 「……ごっつい御方ですねぇ」  イカルにからだを並べたバンが深く感じ入った様子でつぶやいた。 「いや、身長はバンと同じぐらいだぞ」 「身長のことじゃぁございません。人物って言うか、醸し出す雰囲気って言うか……」 「ああ、あれか――あれが人の(うつわ)というものだ」 「それそれ、それでっさぁ」  その夜は、全員で宴会になった。  賑やかな時間はあっという間に過ぎ、ひと段落すると疲れがでてきのか、あちらこちらで横になる者が出始めた。  イカルもひとりになり、杯を口に運んでいた。 「あのぅ……すみません。お隣に座ってもよろしいでしょうか?」  声のした方に目を向けると、少年とその母親らしき女性が立っていた。 「おお、アトリ君か。今日は実によく働いてくれた。おかげで勝てたよ」 「息子は笛を吹いただけですのに、大袈裟ですわ」
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