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「いや、母ごぜ、お聞きください。大抵の者は、実際に武器をとって戦うことを良しとする。しかし、戦では、みんながみんな武器を持って戦っていては、勝ちを得られぬものです。一見つまらない役目でも、勝機を左右する大事なものがある。こちらの少年は、わたしの命令に何ひとつ不満を言わず、疑問も持たずに、素直に従ってくれた。これは素晴らしい資質なのです」  イカルはそう言いながら母子を観察していたら、ほかの村人とは容姿がやや異なっているのに気づいた。  少年のほうは、からだの線は細いのだが、肉付きがよかった。数年鍛えれば、見違えるような肉付きを見せるだろう。  母の方も、村人と同じような質素な身なりであったが、どこか気品があった。 「お二人は、この村のお生まれではありませんね。おそらく羅秦国でもない」  イカルは観たとおりのことを口にした。 「そのとおりです。私たちは、西域にあった王国の者です。十年ほど前に国が滅び、こちらの方面に逃げてまいりました。彷徨っているところをこちらの村人に助けていただいて、おまけに住むところも与えてくださったのです。今回やっと恩返しができると思い、息子を戦に参加させました」 「母も戦うといったのですが、私が止めたのです」 「わたくしは、足手まといだ、と言われました。いつの間にか、ずいぶんと大人になったものです」  と言って、母は苦笑した。 「お家の再興をお望みですか?」  イカルは、今までのやり取りで、二人が滅んだ王国の王族か貴族だろうと推察した。 「いいえ。そこまでは考えておりません。ただ、このまま朽ちたくはありません」  どうやら、当たったようだ。
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