4人が本棚に入れています
本棚に追加
「アトリ君、わたしの従者にならないか。今後の働き次第で、この国で爵位を得られ、将軍にも成れよう」
「えっ、よいのですか!」
イカルの思いもよらぬ申し出に、アトリの眼にちからが宿り、瞳が煌めいた。
「君は好い眼をしている。決して曇らせるなよ」
アトリはイカルに対して臣従の礼をとった。
翌日――。
昨夜の宴会は明け方近くまでつづき、昼すぎになっても寝ている者が多かった。
早い話が、村の者はみんな、家を壊されて、眠るところがなかったのである。
そのようななかで、イカルとバンは二人並んで街道を歩きながら、村の被害状況を確認していた。
「……それにしても、イカル様。単身でハイラル辺境伯のお城まで助けに来てくださるとは、とんだ無茶をしなさって……」
「スイリンに、両親を助けてくれ、と泣いて頼まれれば、断れまい」
「ご冗談を――。スイリンは、まだ一言もしゃべれない赤ん坊で……」
「なんだ、バン。お前にはスイリンの言葉が聞こえないのか? スイリンが泣いて頼むから、わたしは、母のヒエンを助け、父のバンを助けに、この村へ来たのだ」
バンは首を振って耐えていたが、やがて堰を切ったように泪が溢れ、頬を伝い、落ちた。
バンの感情が収まるまで、イカルは黙って歩いていた。
「あのう――ひとつお願いがあります」
「聞こう」
「この通り、村もなくなりましたし、いまのご時世、いつまでも塩の特権にすがっているわけにも参りません」
「うむ」
「無理なお願いかも知れませんが、わたしどもを雇っちゃもらえませんかね」
「お前たちの諜報能力を買え、ということか?」
「――左様で」
「商売上手だな」
最初のコメントを投稿しよう!