辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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   羅秦国は、エウラシオ大陸の東南部にある。  五百年ほど前に建国して以来の統一王朝が現在まで続いていた。  建国当初からの功臣である準王族が国政の要職に就き、王を支えつづけ、大陸史上、まれに見る長期の王朝となった。  この国の準王族にイカルの家系が連なっていた。  イカルが修行している御光流剣術の宗家であるマガンも同じく準王族であった。  マガンの家は公爵位を、イカルの家はそのひとつ下の侯爵位を建国の王より賜り、現在まで家を絶やさず存続させていた。世間から見れば、最上級の貴族たちである。  また、要職という点で言えば、マガンは大将軍を拝命しており、イカルは弱冠二十四歳で王都守護庁の長官代理に就任していた。  王都守護庁は、王の禁衛軍を率いるだけでなく、王国内のすべての治安機関を統括するので、その長官には王族が就任することになっていた。  しかし実情を言えば、長官は名誉職となって久しく、実質的には長官代理がすべてを取りしきっていた。   「――母も赤児も病院で診てもらっています。命に別状はないようです。二日ほどは静養が必要だとか……。特に母の方は精神的にも参っているようです」 「ありがとう。ところで、君はハルス村を知っているか?」  イカルに母子の容態を報告してくれた相手は、カフラの治安部隊の班長だった。  班長からみれば、イカルのほうが五歳ほど年下になるが、王都の治安機関の長官代理であれば、雲上の上司になる。  さらにイカルには、実年齢以上の威厳があった。
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