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「恐れ入ります」
イカルは頭を上げて考える風を装っていたが、心は既に決まっていた。
「――よし、買おう」
こうしてハルス村は地図から消えたが、イカルは羅秦国で最強の諜報部隊となる母体を手に入れた。
「バン――前を見ろ」
イカルの声に、バンは街道の先を凝視した。
はるかに向こうから、一乗の馬車がやって来た。
やがて馬車は二人の目の前で止まった。
馬車から最初に降り立ったのは、手紙を持たせた遣いの者だった。
その者が手を貸して、馬車から降ろしたひとを見て、バンが転ぶように駆け寄った。
スイリンを胸元に抱いたヒエンだった。
バンは両腕をおおきくひろげて家族を包み込んだ。
スイリンの朗らかに笑う声が聞こえた。
今回の一連の騒動は――、『ハイラル辺境伯の乱』として史書に記録されている。
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