辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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 この国の貴族は、外敵の侵入や国内で騒乱が生じると、一族郎党を率いて王国を守ってきた。羅秦国の建国にあたり、王族に従って国家統一に多大なる貢献をした諸族が『準王族』として位置づけられている。  準王族は幼少から文武を兼ね備えた人物になるよう英才教育を受けており、イカルにも国を守るという貴族の血脈が流れているのだ。  王都守護庁の長官代理として国内の治安を守る役目を担うとともに、剣士でもあるイカルは、現場第一主義のひとであった。  こうした信条から、仕事では長期休養をとって、剣術修行と称して地方を巡ることが多かった。こうすることで、国内の実情をあるがままに見聞きできる、というのがイカルの持論だ。  治安部隊の部隊長たちなどは、ほとんど職場にいない上司に困った顔を向けてはいたものの、権限のほとんどを移譲されていたので、実務上困ることはなかった。 「最後の責任はわたしがとるから、君たちの思う通りにすればいい」  考えてみれば、隊長にとって、こんな素晴らしい上司はいない。  王都に配属されている治安部隊は、それぞれ得意とする任務が異なり、十の部隊に分かれていた。さらに地域の主要都市にも治安を守る部隊が置かれていたが、こちらは『部隊』ではなく『班』と呼んでいた。これは任務ごとに分かれているのではなく、管轄する地区ごとに配置されているためであった。  いまイカルと話している班長は、カフラに配置されてから初めて迎える貴人に緊張のいろを隠せないでいた。 「ええ、カナツク河の支流にある谷間(たにあい)の村ですね。確か村民のほとんどは行商人の村です」
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