辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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 二人は壁に掛かった地図でハルス村の位置を確かめた。 「あの母親の話からすると、村で何事か起こっているようだ。母親の意識が戻ってからでは間に合わん。わたしはいまからハルス村に向かう」 「その地域であれば、辺境伯領に近接していますが王家の直轄領ですので、自分たちの管轄です。ぜひ、お供させてください。長官代理おひとりで行かせるわけにはまいりません」  班長はイカルに対する憧れの表情を隠さなかった。イカルは剣聖として全国に名を轟かせており、治安部隊の隊員たちがそうであるように、武術を嗜むものにとっては神のような存在だったのだ。しかも、仕事の上でも、最上位の上司を目の前にして、張り切らずにはいられない。  なによりも、イカルの、地位や名誉に似合わぬ気さくな人柄に、班長は出会ってすぐに惚れていた。班長もイカルに惹きつけられたひとりであった。 「いや、申し出はありがたいが、事の全容がまだ判らない。君たちはカフラの治安も放ってはおけまい。まずはわたしだけで行かせてもらう」  長官代理から、なかば命令含みで言われてしまっては、班長としては退かずにはいられなかった。 「――承知しました。何か異常があれば、すぐにお知らせください」 「すまんな。ところで、君の名を教えてくれるか?」 「はっ! 自分はゲンブであります!」 「響きの良い名だ。それでは、ゲンブ君、頼りにしている」  そう言うと、イカルは準備もそこそこにハルス村に向けて出発した。  カフラの街を出立したのが夕方近くであったこともあって、山中で野宿をした。星々の星の下で眠る夜、樹々の間から覗く月明かりが幻想的な光景を作り出していた。
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