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イカルは、翌日の朝早く、ハルス村に到着した。
ハルス村は、谷間の街道沿いに張り付くように家屋の並んだ五十軒程度の小さな村で、川向こうの斜面には階段状に田畑が連なっていた。川のせせらぎが静かに響き、空気は清く澄んでいた。
村のなかは閑散としており、ひとっ子ひとり見えなかった。家屋の扉や窓はきつく閉じられており、気配すら感じられない。
イカルは街道の真ん中を歩いて、さらに様子を覗う。
目の前の大きな屋敷の門扉が開いていた。
イカルが屋敷の中を覗こうとすると、三人の兵士が出てきた。
兵士たちは通りのど真ん中に立つイカルの姿を見て、少し驚いた様子を見せたが、すぐに相手がイカルひとりだと判ると、
「おい、そんなところで何をしておる! 怪しい奴だな!」
と声をあらげて、イカルを取り囲んだ。
「街道を歩いているだけで、怪しい奴とは、失礼なやつらだな。その格好、お前たちはハイラルの兵だな。ハイラル辺境伯の兵士が王家の直轄領の村に何の用だ。そっちのほうがよほど怪しいぜ」
イカルは兵士たちの身につけている甲冑から辺境伯の兵士だとすぐにわかった。
「うるさい! 無礼なやつめ、始末してくれる!」
兵士たちが手にした武器を一斉にイカルへ向けた。
槍が二本に剣が一振。
イカルを中心にして、三角に取り囲んだ。
イカルはまだ剣を抜かない。
緊張することもなく、ただ自然体で立っていた。
イカルのあまりにも泰然自若とした態度に、兵士たちは戸惑ったが、武器を向けた以上収まりが着かず、包囲の輪を狭めていった。
槍を手にした兵士が背後に回り、攻撃の間合いに入った。
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