辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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 イカルの背後から、槍の突きが襲う。  すでにイカルはその場所から消えていた。  からだを反転させ、槍をたぐり寄せつつ、兵士の側面に付くと、首筋に手刀を打ち込んだ。  兵士が崩れ落ちたとき、イカルの手には槍があった。  仲間の倒れたのを見て、剣を持った兵士が慌てて攻撃してきた。  上段からの単調な打ち下ろしだった。  しかも剣の間合いとしては遠すぎる。  つまり何もしなくても当たることはない。  イカルは槍で剣を叩き落とすと、兵士は勢い余ってたたらを踏んだ。  体勢の崩れた相手の喉元に、イカルは槍の石突きを差し込んだ。  兵士は蛙が潰れたような奇妙なうめき声を上げて、後方に吹き飛んだ。 「さぁ、どうする? やるか?」  イカルは最後のひとりにわざと隙を見せて誘いを掛けた。  槍を持った兵士は簡単に誘いに乗ってきた。  イカルは槍先を兵士の手元に押し込んで手首を斬る動きをして見せた。  手首を落とされると思った兵士は槍を握る手を放した。  イカルは自分の槍で、兵士の槍を絡め捕るように引き寄せると、外へ弾き飛ばした。  勢いそのままに槍を旋回させ、兵士の顎を打った。  兵士は頭を震わし、白目を剥くと、膝から崩れ落ちて、地面に伸びた。 「弱すぎる……」  イカルは、嘆かわしい、と首を振りながら、兵士たちの帯をとって、手足を縛っていった。  最後のひとりを縛り揚げたところで、横合いから声を掛けられた。 「あのぉ、剣士様。たいへんお強くて結構なのですが、兵士さんたちを懲らしめなさって、大丈夫ですかね?」  イカルが声のした方へ顔を向けると、村人らしい者がへっぴり腰で立っていた。
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