辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

8/16
前へ
/30ページ
次へ
「ふふふ。お前の顔には、面倒なことをしてくれた、と書いてあるぞ」 「いえいえ、滅相もない。た、助けていただいて、感謝しております。はい」  村人は慌てて両手を振って、イカルの思い違いであることを強調する。 「まぁ、よいわ。とにかく、この村は王家の直轄領。なのに、こやつらはハイラルの兵士。何をしていたのかは知らないが、捉えようによっては、侵犯行為だ」 「はい。実は、村長がハイラルの兵士どもに連れて行かれたんです」 「――ひょっとして、村長だけでなく、家族全員まるごとじゃないのか?」 「ひぇっ! 剣士様はよくご存じで」 「その母子から頼まれてここに来たのだ」 「ヒエン様に? それはどうも、ありがとうございます」  村人は深々とお辞儀をして、「剣士様にお願いされたということは、ヒエン様はご無事でしたか」と安堵に胸をなで下ろした。 「舟で川を下って逃げてきたようだ。怪我をしていたので、まったく無事とはいえないが、子どものほうは元気だった」 「いえ、今この瞬間に、あいつらから酷い目に遭っていないことが判っただけでも、一安心でございます」 「この屋敷は村長(むらおさ)のか? ならば、こいつらを放り込んでおこう。少し手伝ってくれるか?」 「へい。ほかにも人手はおりますので、呼んでまいります」  そう言うと村人は街道から家の裏手に消えていった。    しばらくすると、十人ばかり村人を連れてきた。  顔ぶれはいずれも若く、年齢は二十代から三十代くらいの男性ばかり。  女や子ども、老人は、対岸の階段状の田畑に散らばっている休憩小屋に逃がしているらしい。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加