辺境の嵐 -嬰児の願い- (外伝1)

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 男も行商のため外に出向いている者のほかは、狩猟小屋などに分散しているという。  手分けして兵士たちを村長の屋敷にある蔵に放り込むと、イカルは集まった村人から事情を聴いた。 「――はい。この村からは山越えで騎馬民族のところにも行けますし、西に向かえば白沙(ハクサ)通商圏の緑地(オアシス)の国々にも通じています。土地は狭いですが移動には便利ですので、わたしどもは、村長のバンを(かしら)に、もっぱら薬を商う行商人として国境を越えて、あちこちに出向いております」 「ところで、バンと申したか――その村長の屋敷に何がある? あいつらはこの屋敷の中で何をしていたのだ?」 「それは、わたしどももよくわからないんですが、おそらく塩に関係することだと思います」 「塩――だと?」 「はい、建国の当時の話になるのですが……」  もともとこの村は、騎馬民族の草原、白沙諸国の沙漠、それに羅秦国の農耕という、三つの方面に通じている特異性から、国家勢力からは狙われやすい土地だったようだ。加えてこの村の付近からは、岩塩が採れた。  塩は羅秦国の専売品になっている。国庫の実に七割から八割が塩の専売から得られているのだ。塩が国家の専売であるにもかかわらず、唯一の例外がこの村に与えられた。  塩に関して言えば、この後に海洋貿易を通じて塩田から採れた大量の塩が流通するようになるが、このときはまだ『塩』といえば岩塩を指している。 「この地域で産出する塩は、この村の者が売って良い、という権利です」 「その権利書は、この村の者しか売れぬというものだろうか? そうであれば、ハイラルの者がほしがっても意味は無いと思うが――」
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