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1.二人の幼馴染
水無月 湊世は百畳ほどの大広間で畳いっぱいに紙を敷き、ひたすらに墨で絵を描いていた。
鱗の一枚一枚に足が生えた異様な金魚や鳥とハリネズミを合わせたような針の羽を持つ動物など、不気味な絵ばかりだった。しかし透明感のある尾鰭、波のような鱗や羽根は黒一色にも関わらず、色彩が浮かび上がってくる。生命力が溢れだし、まるで今にも動き出しそうであった。
「湊世!」
名を呼ばれプツリと集中力が切れた。湊世は少しパチパチと目を瞬かせ、現実と絵の狭間にいた自分を引き戻す。モノクロだった湊世の目に色彩が戻っていき、湊世は庭の方に目を向けた。
自然を縮図化したような美しい庭園が目一杯に広がり、蕾がついた大木をデザインした欄間から気持ち良い風が通り抜けていく。かぽんと鹿威しが鳴り、一層緑を美しく彩った。そこに同年代の活発そうな短髪の少年と、肩で綺麗に髪を切りそろえた大人しそうな黒髪の少女がいた。
「光太、彩。どうしたんだい?」
幼馴染の二人の姿に柔らかく微笑みながら湊世は縁側に近づいた。ついで彼らの背後にチラリと目をやる。
二人の背後に庭園に不似合いな翁面を被った大きな毛玉のような化け物が立っていた。
使い古した筆先のようなゴワゴワとした体毛の奥に、鉛筆で塗り潰した目玉がじっと値踏みするように、少年たちを見下ろしていた。しかし彼らに気にする素振りはない。このような化け物がいるのは日常であったからだ。
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