1.二人の幼馴染

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「やっぱり湊世は俺には敵わないんだな! ま、俺の方が力も才能も上だし? 義理とは言え弟に負けるはずねぇよなー!」  光太は湊世の背中をバシバシ叩き、わざとらしく大声をあげた。  光太は自己中心的なところはあるが、悪い奴ではない。長谷川家で過ごしてから親身になってもくれたし、時々こうして湊世を心配して声をかけてくれる。それに湊世と引き合いに出して自分の力を誇示するのも、幼馴染の彩の気を引きたいからだと湊世は知っていた。今もチラチラと彩の反応を伺う光太を湊世は心の中で応援する。  しかし彩は浮かない顔をして光太のアピールに見向きもしなかった。 「彩? どうしたんだい?」  湊世が声をかけると、彩はぱっと顔をあげ誤魔化すように笑って見せた。 「う、ううん! 何でもない! 最近楽器の練習が多くて疲れちゃったのかも」  彩の一族は音楽で妖を鎮める名門の家系だった。  今はヴァイオリンの稽古をしているそうだが中々上達せず、家族にいわれて一日のほとんどを稽古にあてるほどだった。 「大丈夫かい? 無理しないようにね」 「湊世だって頑張ってるんだもん。私も頑張らないと。それにね、お母さんに彩はセンスがあるって言われてるんだ。当主を引き継げるのは私しかいないから、もっと頑張りたいの」  嬉しさが滲みはにかんで笑う彩に、湊世もつられて笑う。 「そっか。じゃあどっちが早く上達するか勝負だね」 「うん! 頑張ろうね」  ぐっと拳を握りやる気を見せる彩の袖の隙間から、湿布のついた手首が見えた。きっと腱鞘炎になったのだろう。彼女の努力の証だった。  笑いあう二人に光太は不機嫌そうに顔を歪ませた。 「ともかく! 修行なんかいいから遊びに行こうぜ! ほらほら!」  二人の手を引っ張り、光太たちは庭を駆けていった。  風が草をうねらせ、彼らの背中を押す。  音もなく葉と花弁が共に舞い、緋色の斑が入った銀の鯉が、青く澄んだ水面にはねて小さな水音が響いた。彼らに輝く未来あれと、光に反射する笑顔に祝福を込める。    湊世の一番幸せな記憶だった。
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