0.プロローグ

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 柱が少ない書院造を特徴とした屋敷に一人の少年がいた。中学生ぐらいだろうか。さらりとした黒い髪、大きな黒い猫目、しかし対照に肌は不健康なまでに白い、まるで水墨画から飛び出したような少年だった。  彼が身を包む着物は高貴な者しか纏うことの許されない、正に名品。台所仕事の邪魔にならないように襷掛けをし、幼さの残る横顔からタラリと汗が流れ出る。焼き魚、煮物、味噌汁などの料理を並行して仕上げていく。  少年のそばには黒い犬がいた。  その犬は不思議な犬で、主のそばによると暇だと声を上げたのだ。どっしりとした体躯に似合いの渋い声だった。腹が空いたと言って、少年に料理を作らせておきながら勝手気ままな奴だと少年は呆れて笑う。  しかし少年はとことんこの犬に甘い。自分の犬が可愛くて仕方がないのだ。  しょうがないなと笑い、大根を切りながら少年は語り始めた。  ここから語るは、『水無月(みなづき) 湊世(そうせい)』のお話だ。
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