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今がある
ドッジボールのあとも体育だけは堂々と楽しんだ。段々と僕をいじりにくくなった今野は、新しいターゲットを見つけた。でもそれがPTA役員の息子だったから、取り巻きもみんな親を呼び出されての大問題に。ひどく怒られたらしく、もうヒゲを抜かれたライオンみたいに大人しくなった。それは僕の想像だけど。
報告をしようとお姉さんの所へ行ったけど、もう病院にはいなかった。屋上の巣箱の中も空っぽ。看護師さんを探したけど見つからなかった。きっとお姉さんは良くなって退院できたんだと信じた。
黄色いカプセルも、小鳥も、病院も、過去になった夏休み。友達と学校のプールに行く約束をして待ち合わせた。
「翔太くん、お待たせー」
小鳥を見つけた瓦屋根の一軒家の前にいると、中から菅原さんが出て来た。そこが菅原さんの家だと知った時は驚いた。そしてもうひとつ。
「彩葉ー、忘れ物」
「ありがとう、お姉ちゃん」
菅原さんのお姉さん、彩月さんが家から出て来た。
「あ、翔太くん。彩葉をよろしくね」
「はい。泳ぐの得意だから任せてください」
「うん。そっちもよろしく」
適合者が見つかり手術が成功して退院後、カプセルの話を聞いた菅原さんが僕にそれを話して姉妹と知った時は信じられなかった。今ではドクの散歩も一緒にするようになった。
黄色いカプセルに入っていた言葉が薬みたいに力をくれた。そして過去の僕が行動した事で色々な事が変わって未来の今がある。
僕も誰かに声をかけようと思う。その言葉が助けになる事だってあるんだ。だから。これからも今日という未来を大切に生きてゆこう。
<おわり>
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