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決闘の合図
「ドッジボール」
「はあ?」
今野の気を僕に向けるために適当に言葉を探した。
「今度。体育のドッジボールで決めよう」
「マジかよ。翔子がドッジ―ボールで今野くんと勝負するってよ」
取り巻きがケラケラと笑うと、今野も鼻で笑って僕の肩を突き飛ばした。
「翔子のくせに縄跳び飛べたくらいでカッコつけてんなよ」
「カッコよく見えてんだ」
「なんだとお前!」
また突っ込みが入って顔を赤くするほど怒った今野が大声をあげた。掴みかかる勢いだったが、廊下から「先生こっち」という女子の声が聞こえると、取り巻きと一緒に煙を上げるように教室から出て行った。
「ありがとう菅原さん。でも、もうやめた方がいいよ」
僕は今野に突っ込みを入れた菅原さんにお礼を言った。正直、後ろの席だから名前は知っていたけれど顔は記憶にないくらいだった。
「べつに。そろそろあいつらにも限界だったから。それに」
「それに?」
「今日の小川くんは本物みたいだから」
言葉を失うほど驚いて菅原さんから目が離せなくなった。すぐ後ろに僕やあいつらの事を、そんな風に思ってる子がいたなんて。僕はどれだけ周りを見ていなかったんだろう。
「ちょっと、私の顔そんなに珍しい?」
「あ、あ、ごめん」
僕は椅子を戻すと席についた。なんだか背中が落ち着かなかった。
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