あの日のいつかが今日でした

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「本当ですよー」斜向かいの席に座る、南が言った。 「でも、結構聞くだろ? 自由っていうのが一番不自由だって」 「確かに。よく聞きます」南が答える。 「僕は初めて聞きました」村田が手を上げて言う。 「忘れているだけだ。どこかで絶対に聞いている」 「もしかして、いつかどこかの授業で言ってたとか?」村田が訊いた。 「それはない。言った記憶がない」 「じゃあ、初めて聞きました」 「そうか。なら初めてかもしれないな」 「はい、初めてです」 「よし、じゃあよく覚えておけ」 「わかりました。可能な限り長く覚えておきます」  何人かが笑った。真面目な生徒数名は黙々と手を動かしている。 「書けている奴はそのままで、行き詰っている奴は手を上げろ。俺がテーマを決めてやる。ちゃんと真面目なテーマにするから安心しろ」  クラスの半数以上が手を上げた。僕と南も手を上げた。村田は手を上げなかった。
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