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「よし、じゃあ始め。黙々と書いていけ」
有本が手を叩いた。僕はシャーペンを握り直す。やはり、何も思いつかない。
とりあえず、元気ですか? と書いてみる。死んでませんか? と続ける。つまらなさすぎて、苦笑する。情けないくらいセンスがない。全部消した。
となりの席の江川に目をやった。原稿用紙は半分ほど埋まっていた。有本にテーマを決めてもらわずに、自分でテーマを考えた、数少ないうちの一人だった。
テーマを覗き見た。『ずっと思っていたこと』だった。江川と目が合った。小声で、
「何だよそのテーマ」
「別にいいでしょ。何でも」
「有本先生はいつから禿げているんだろうとか?」
「それもある」
「あるのかよ」
「あるでしょ、そりゃ」
「いいのかよ、そんなので」
「いいでしょ、別に。『自由』なんだから」
「なるほどな」
「そうだぞ。宮原。お前のテーマ、『未来の自分へ』だろ?」巡回してきた有本が言った。
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