11人が本棚に入れています
本棚に追加
「――あんた、いったいどういうつもりなんだ」
総司の声をしているのに、総司らしからぬ乱暴な言葉遣い。初めて聞く地を這うような声に顔を上げようとするも、しっかりと頭を抱き込まれているため、あたたかな胸元から抜け出すことができない。
「先にも説明しただろ。こいつの剣の腕を江戸で腐らせるのは勿体ねえ。俺の傍で、効率的に使う」
「……自分がなにを言っているのはわかっているんですか? 雪は女子ですよ?」
「男も女も関係ねえよ。使える者は使う。それだけだ。それにお前だって、まんざらでもねえだろ? 今頃、お雪が江戸にいたら、こうやって抱き締めることもできねえもんな?」
明らかな挑発を含んだ歳三の声。ぐるり、と視界が回る。雪の身体を勇に押しつけた総司は、勢いのまま歳三に殴りかかろうとしていた。雪が止めるよりも早く、真横から伸びた太い腕が、総司の額をがしりと鷲掴みにして動きを止める。
「落ち着け、総司!」
「離してください!」
「お前がその調子だから、お雪とも落ち着いて話せねえだろう! トシを責める前に、お雪の気持ちを聞くことが先決ではないのか!」
はっと見開いた丸い瞳が、雪を見つめる。言葉に窮した雪は、血だらけの両手を胸の前で握り締めた。
最初のコメントを投稿しよう!