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「……話があんなら、身を清めてからでいいだろ。こいつらの死骸も片づけねえといけねえし」
歳三に手で追い払われた雪は、これ幸いとばかりを背を向ける。総司が引き留めることはなかったけれど、八木邸を立ち去るまで、背中に鋭い視線を感じ続けた。
震える手を、骨が浮くまで握り締める。
総司は知らない。雪は、家を守る役目を負った、柔らかくあたたかな女子などではない。
今よりもずっと昔。この手で母親を殺したと打ち明けたら。今度こそ総司は雪を嫌いになるだろうか。それとも、優しい総司のことだ。これまで以上に痛々しい存在として、雪に接してくれるかもしれない。
そんなのはごめんだ。雪は総司と対等な存在でいたい。守られる存在ではない。守る存在でありたい――と思うのは、剣の達人たる総司に対して過ぎたる願いだけれども、いつか総司に助けが必要になったその時は、この身を賭して役に立てたらいいと思う。
死ぬのは怖くない。
死はいつだって、雪の隣にあった。
井戸から汲み上げた水を頭からかぶる。髪の先から落ちた赤い雫が、足元に黒い血溜まりを作る。地面に広がる黒々とした染みと見つめながら、雪は芹沢らが夜討ちに遭った日のことを思い出していた。
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