11人が本棚に入れています
本棚に追加
「――本当に? 本当に、お雪なの?」
血の雨が降る深更。総司は震える手で雪の頬を包み、おそるおそる尋ねた。
緩慢な動作で見上げる。血生臭い夜には不釣り合いの美しい二つ目が、まっすぐに自分を見下ろしているのが見えた。
「はい」
「……本当に?」
「はい」
「夢じゃなかった……」
ぐっと頭を引き寄せられる。頬には雨に濡れた総司の小袖の感覚。総司の腕の中は、いつだって陽だまりの匂いがする。だが、今夜に限っては、雪に負け劣らずの臭気がした。
「どうして京に?」
総司さんに会いたくて。そう口にしそうになり、ぎゅっと唇を噛んだ。総司の重荷になってはいけない。
「……土方さんにご用があって」
「歳三さんに? 歳三さんが雪を京に呼び寄せたの?」
「いえ……まあ、はい」
「いつから」
「……水無月の……末?」
記憶を辿って答える。雪の頬を包む総司の指先に力が籠った。
「みつきも前? それまでどこにいたの?」
「どこにいたのかは……教えられないかもしれません」
香也の薬種問屋は、いわば新選組隊士の隠れ家だ。もしかしたら、隊士である総司にも内密の場所かもしれない。隠れ家を教えるにあたっては、念のため歳三に確認した方がいいだろう。
最初のコメントを投稿しよう!