背中

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その時、強い風が吹き、納屋の壁が大きく揺れた。 「おっと……。強い風が来たな……。そろそろかな……」 正成は手を洗い、立ち上がった。 「何がそろそろなんだよ……」 成明も手を洗うと、壁にかけてあった汚れたタオルで手を拭く。 「台風ってのは、その雲の切れ間程、風が強いねん……。キツイのが来たって事はそろそろ雲が切れるって事やな」 成明と玖瑠美は顔を見合わせて頷いた。 「まあ、これも経験から知った事や。全ては自分の体で覚える。それが人生にとって一番大事な事や。そんなふうに経験に勝るモノはこの世には無い」 正成は納屋の戸をゆっくりと開けた。 目の前に広がる海は雲の切れ間から差す夕日に照らされて輝いていた。 「台風、行ってしまったんか……」 正成の後ろから成明が訊いた。
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