背中

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成明と玖瑠美はいつも一緒だった。 それだけにこれから進む道が違う事に玖瑠美は焦燥感に似たモノを感じていた。 「玖瑠美は高校行ってしたい事、あるんか」 正成はまた煙を吐きながら訊いた。 玖瑠美は土を捏ねる正成をゆっくりと視線を移した。 「別に無い。したい事なんてわからん。わからんから高校行くんかもしれん……」 正成はそれを聞いて小さく頷き、 「そんなモンだな……」 と呟くと泥だらけの指でタバコを摘まむと吸い殻を入れた缶に放り込む。 「この馬鹿も同じだ。自分で何がしたいんかわからんから瓦屋になるとか言いよる……」 「そうじゃない……。俺は親父みたいになりたいって思ったから瓦屋に……」 成明は土を捏ねる手を止めた。 そんな成明を見て正成は歯を見せた。 「こんな親父になりたいってどうやったら思えるんだ……」 正成はまた土を型に叩き付ける。 「毎日毎日泥に塗れて、来る日も来る日も土を捏ねて、そんな生活の何処に憧れるねん……。俺ならもっと今風の仕事がしたいと思うな。ちゃんと学校行って、それなりに稼げる仕事をしたいと思うな」 正成は顔も上げずにそう言う。
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